【ドラマ】 坂の上の雲

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(可もなく不可もなくで50点 最高傑作のみ100点)
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徳翁導誉 【採点:75点
2011/12/29(木) 13:08
2009年から2011年まで、3年に渡り放送されたスペシャル大河。
平均視聴率 14.4% 最高視聴率 19.6%

もう兎にも角にも、「いくら制作費が掛かってんだよ!?」というのが、
この作品に対して真っ先に浮かぶ、私の偽らざる感想ですね(笑)。
(1話あたりの制作費は、通常の大河の4倍とも言われています)
そして予想通りに・・・と言うか、予想以上に低かった視聴率!!
元々大河でも、幕末・明治は視聴率が取り辛いと言われてはいるものの、
まさか、全13回で1度も視聴率20%台を記録する事なく終了するとは・・・・
NHK史上空前の制作費を掛け、しかも原作が「坂の上の雲」だった事を考えると、
この低視聴率は、NHK的にはまさに大惨敗と言って良い結果だったかと。
でもまあ、その理由も解らなくは無いんですよねえ。
と言う事で今回は、その辺の理由も考えながら、感想を書きたいと思います。

先ず最初に、作品全体としての個人的な評価ですが、
それなりの出来に仕上がってはいたものの、
良作や傑作と言える程までには至らなかったという所でしょうか?
そもそも「坂の上の雲」という原作自体が、日本で最も人気のある歴史小説であり、
なおかつ作者の司馬遼太郎が、存命中に映像化を許可しなかった事も重なって、
制作決定がなされた直後から、この作品への期待度はかなり高かったですからねえ。
(当時、作者の死からわずか3年で、遺族が映像化を許可した事には驚きましたが・笑)
ですのでNHK側も、映像化を推進したワンマン会長の海老沢(当時)を中心に、
日本のテレビドラマ史上でも最大規模の制作費・制作期間・役者陣で挑む事を決めるも、
脚本担当の野沢尚の自殺、NHKの金銭不祥事、受信料不払い騒動、それに伴う会長の失脚と、
制作段階でドンドンとスケール・ダウンを強いられる結果に・・・・
NHKバッシングが起きる中、当然ながら史上空前規模の制作費は削られ、
脚本は野沢が書き残したモノをスタッフが引き継ぐ形にし、放送開始は3年遅れ、
最初は「21世紀スペシャル大河ドラマ」として、1年に渡り「全18回×75分」の放送予定が、
単なる「スペシャルドラマ」となり、3年に分けて年末ごとの「全13回×90分」放送に変更。

まあ、完成前のこうした裏事情が、ドラマの中身に与えた影響も大きかったと思います。
特に視聴者の立場から言えば、放送が3年間に及んだ事で、
5話見たら1年空き、4話を見たら再び1年空き、そして最後に4話・・・というのは、
いくら何でも間延びし過ぎです(インタビューを見ると役者側も間延びして大変だったとか)。
当時の状況から、制作費が削られたのは致し方なかったかも知れませんけども、
やはり、この放送形態はさすがに酷過ぎたと思います。
1年経つごとに視聴率が右肩下がりだったのも、この変則的な放送の影響が大きかったかと。
(ちなみに各年の平均視聴率は、第1部17.5%→第2部13.5%→第3部11.5%)
あの中断期間はさすがに長過ぎますし、しかも他局は年末の特番期に突入してますからねえ。
その上、放送回数を減らす代わり、1回あたりの放送時間を延ばした事で、
1話分を見るにも、それなりの労力を必要とする長さになってしまいました。
「1話90分」と言ったら通常の大河の2倍で、ちょっとした映画並みの長さですからねえ。
でもまあ、これが「全13作の連続映画シリーズ」みたいな作りであったなら、
それはそれで、充分に面白い作品に仕上げる事も可能だったのでしょうが、
再放送を念頭に置いてか、90分が「45分×2本」という感じの構成になっており、
しかも、その45分ですら、かなりメリハリを欠いてましたからねえ・・・・

制作費が削られたとは言え、それでも他のドラマに比べれば、まだまだ巨額で、
しかも、名だたる役者陣を既に揃えていましたので、
1シーン1シーンは、確かに豪華な作りではあったのですが、
その所為か1シーンがどれも長回しで、それが次々に続いていくモノですから、
ドラマとしての緩急を作れず、メイン・ディッシュばかりが並ぶ料理のようなモノです。
制作費を掛け、名優を揃える事が出来た一方、放送時間は削られる状況の中で、
「あれも入れたい、これも入れたい」とやり、却って中身が散漫となった印象ですね。
まあ確かに、激動の時代でありながら、なかなかドラマの舞台にはならない「明治」を、
これだけ力を入れて制作できる機会など、そうそう有るモノでは無いですから、
登場させたい人物も、エピソードも、風景も、それこそ数多くあったしょう。
制作費が豊富なので、海外ロケや屋外ロケの数と規模も、歴代の大河作品とは段違いですし、
アメリカ映画とは比べ物にならないとは言え、CGに掛けた額も相当だったはずで、
そうした金の掛かったシーンを、出来るだけ無駄にしたくない思いもあったでしょう。
また、あれだけ役者を揃えると、登場シーンを確保しなければならない事情もあったでしょう。
しかし、だからと言って、放送時間の枠自体は決まっている訳ですし、
本来ならそれを調整すべき脚本家が自殺し、後をスタッフが引き継いだような構成では、
それらの事情を全て盛り込んで作りたいなどと言っても、やはり不可能に近いですよ。
ハッキリ言って、ドラマとしては『詰め込み過ぎ』て失敗だったと思います。
見ていての感想としては、本放送なのに総集編を見ている感じに思えましたからねえ。

いろいろ事情はあったと思いますが、やはり全体の時間枠を考えれば、
時間が足りずに薄くなりがちだった、主人公3人の人間ドラマとしての部分を色濃くし、
初登場がラストシーンみたいな役なども多かったので、その辺は思い切って削り、
高額だからとCGを全面に押し出すのではなく、背景などでサラリと効果的に使い、
政治や戦争の状況を、予備知識のない視聴者にも解る説明を入れた方が良かったと思います。
あの解説では、毎回冒頭部で煽ってきた奉天会戦や日本海海戦の事すら理解できないでしょうし。
生前に原作者が反対していたモノを作るのですから、色々と考慮はあったでしょうし、
ドラマ制作で最も重要な脚本家が途中で居なくなるなど、大変だった面があるのは解りますが、
かと言ってドラマそのものは、出来あがった作品の中身こそが全てですからねえ。
正直な所、歴史や戦争の再現シーンは金を掛けただけあって良く出来ているものの、
根幹のドラマ部分が無味乾燥的で、「歴史の再現映像集」という感じの方が強かったです。
それも「戦場のシーンを淡々と」というのが多かったですね。
特にその傾向が、最後の第3部などでは顕著でしたねえ。
でもまあ、この辺は原作自体もそうですし、野沢が残した脚本も後半の比重は低いでしょうから、
仕方のない面はあるのかも知れませんけども、ドラマ的にはやはり残念です・・・・

って、これだけ書くと、ドラマ全体の出来も悪いように思われるかも知れませんが、
決して、そこまで悪い出来では無いと思います。
第1部などは普通に面白かったですし(最初は野沢脚本が多く残っていたのかも?)。
まあ、この作品の最大の問題点は、放送の時間枠が足りないばかりに、
あれこれと詰め込み過ぎた一方で、演出的に必要な部分を削り過ぎた所にあるので、
逆説的に言えば、時間枠をもっともっと多く取れば良かったんです。
「全13回×90分」というのは、通常の大河で言えば26話分なので、
ちょうど半年分ですから、2倍に薄めて通常の大河ドラマとして放送すれば良かったかと。
「予算上、スペシャル大河でなければ」という事なら、大河史上初の2年物でも良かったですし。
韓国の大河ドラマとかですと100話を越える作品も珍しく無いので、出来ない事は無いかと。
とは言え、作品としては既に放送まで終わっている以上、大河2年分は無理にしても、
枠時間の制約で、撮ったけどお蔵入りになったシーンも結構あるらしいですし、
不足した歴史や戦争の状況説明を、後からナレーションと映像資料等で差し込む事は可能ですし、
前菜的な人間ドラマの部分なら、今から撮っても、そこまで制作費は掛からないでしょうから、
出来る事なら完全版みたいな感じで、「全50話×45分」の通常大河版に再編集してもらいたいです。
駄作とまでは言わないものの、これだけの制作費を掛け、これだけの映像を撮れたのに、
平凡な作品として消えてしまうのは、あまりにも勿体ないですので・・・・

最後に、役者陣に関しても少し書いておきますが、
秋山真之役の本木雅弘、秋山好古役の役の阿部寛、正岡子規役の香川照之と、
主役を演じた3人とも、かなり良かったと思います。
演技派の役者である本木や香川だけでなく、阿部も良かったと言う事は、
演出や脚本がそれなりの出来ではあった事の証かと(笑)。
モデル出身で格好良いものの、演技の幅はそれ程でない阿部は、
作品自体の出来次第で、名優にも大根役者にも化けてしまうので。
また、彼ら主役以外の役者陣にしても、あれだけのメンツを揃えただけあって、ほぼ文句なし。
でもまあ、最後に出てきた赤井英和とダンカンは少しガクッと来ましたが(笑)。
その他にも海軍では、石原軍団の2人がなあ・・・・
渡哲也の東郷平八郎も、舘ひろしの島村速雄も、決して悪いとまでは言いませんけど、
これが時代劇や劇画的な作品なら、あの濃い演技と存在感が逆に映えるのですが、
この作品はそうした世界観ではないので、どうしても演技が不自然に映っちゃうんですよねえ。
一方で陸軍の方は、第3部の準主役である柄本明の乃木希典など、まさにイメージ通り!!
高橋英樹の児玉源太郎なども、イメージとは異なるものの、良かったと思います。
(明治以降の人物は、写真や証言が多く残されているので、演じるのも難しいですよね)
あと個人的には、米倉斉加年の演じた大山巌は結構好きでしたし、
原作小説では悪く描かれた伊地知幸介も、村田雄浩の好演でドラマ版では活きており、
総じて陸軍の面々の方は、かなり良かったと思います。

という事で、まとまりも無く、ダラダラと書いてしまいましたが、
ドラマ的には、「詰め込み過ぎ」という大きな欠点はあるものの、
日本製のドラマで、ここまでの超大作というのは、そうそう有るモノでは無いですし、
それだけの作品を、ある程度の形にまで仕上げた事は、それなりに評価が出来ると思います。
評価としては、佳作レベルの「75点」って所ですね。
まあ、あれだけの期待度と、あれだけの制作費を考えれば、この評価は少し寂しいですが、
しかし巨費を投じたからと言って、必ずそのレベルまで達せる訳ではないですからねえ。


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